12 July 2013

渋谷の子

 
祖父母の家が渋谷と青山のちょうど中間あたりにあって、幼いころにはよくお泊まりにいっていた。学校もずっと渋谷か渋谷の近く。慣れ親しんだ町。
家から、渋谷も新宿も同じくらいの距離感だけど、私はどうも渋谷の方が好きだった。
その渋谷が、だんだん少しずつ変わってきて、ついには私の知らない町になってしまった。
プラネタリウムがなくなってヒカリエになっちゃったよ。ひかりえという言葉の響きがとてもきれいだから、まあよしとするけれど、プラネタリウムの夢の夜空がどこかへ消えた。

たしか高校生の頃だったと思うけれど、駅からプラネタリウムのビルまで続く長い渡り廊下で知らない女性に声をかけられたことがある。
「かわいいねえ。あんたどこの子?渋谷の子?」
歌うような調子で言ったその人はなんだかちょっと胡散臭い。どうせアヤシイ勧誘かなにかに決まっているからそのまま黙ってすれちがったが、名前も知らない、顔ももう良く思い出せない、ただ一度すれちがっただけのその人をなぜかずっと覚えている。渡り廊下を歩くたびに思い出していた。

プラネタリウムも渡り廊下もなくなったけれど、その人の記憶はなくならないのだろうと思う。